人が増えてからでは遅い。人事制度を“今”考える理由

「人事制度ですか?
うちはまだそこまでの規模じゃないですよ。」
これは、実際によく聞く言葉です。
社員20名〜30名。
売上は順調に伸びている。
社長の目も現場に届いている。
社員同士も顔が見える距離感。
たしかに、その状態であれば、制度がなくても回っているように感じます。
ですが、私はこれまで多くの中小企業を見てきて、はっきりと言えることがあります。
「今は回っている」と「これからも回り続ける」は、まったく別物です。
今日は、実際にあったある会社の話をします。
制度がなくても、うまくいっていた時期
その会社は社員25名ほど。
業績は右肩上がりで、採用も順調でした。
社長は現場にもよく顔を出し、社員一人ひとりの働きぶりを見ていました。
評価はどうしていたかというと、とてもシンプルです。
「だいたいわかる」
「頑張っている人は見ている」
昇給や賞与も、社長の判断で決めていました。
その時点では、特に問題は起きていませんでした。
むしろ、スピード感があり、意思決定も早く、良い会社でした。
しかし、社員数が35名を超えたあたりから、少しずつ空気が変わり始めます。
小さな違和感が、組織を揺らし始める
最初に出てきたのは、こんな声でした。
「評価の基準がよくわからない」
「あの人の昇給理由って何なんだろう」
「何を頑張れば上に行けるのか見えない」
最初は小さな違和感です。
ですが、この違和感は放っておくと、静かに広がります。
・仕事量は増えているのに給与は変わらない
・役職の基準が人によって違う
・評価面談の内容が毎回バラバラ
・上司によって評価の温度差がある
社員が増えると、「社長が全部見ている」は成立しなくなります。
それでも仕組みを作らなければ、判断は感覚のままです。
そしてある日、エース級の社員が退職しました。
理由はとてもシンプルでした。
「将来が見えないからです。」
社長は驚きました。
「きちんと評価していたつもりだったのに」
ですが、評価していることと、伝わっていることは違います。
大切なのは、評価の“存在”ではなく、評価の“見える化”です。
人事制度は「管理のため」ではありません
多くの経営者が誤解していることがあります。
それは、人事制度は「管理を強めるためのもの」だという考えです。
本来の目的は違います。
人事制度とは、
・何を大切にしている会社なのか
・どんな人に成長してほしいのか
・どうなれば昇進するのか
・どんな行動が評価されるのか
これらを明確にするための“言語化装置”です。
制度がない状態というのは、
経営者の頭の中にある基準が、言葉になっていない状態です。
社員が10人なら、なんとか通じます。
ですが、30人、40人、50人になると、
頭の中の基準は伝わらなくなります。
その結果、「なんとなく不公平」が生まれます。
そして組織は、静かに弱くなっていきます。
制度がない会社に起きやすい3つのこと
私が見てきた中で、制度がない会社に起きやすいことがあります。
① 頑張る方向がバラバラになる
社員が「何を目指せばいいのか」がわからないため、努力の方向が分散します。
② マネージャーが疲弊する
評価基準が曖昧なため、部下との面談が感覚論になります。説明ができず、関係がぎくしゃくします。
③ 優秀な人から辞める
成長意欲の高い人ほど、「基準が曖昧な組織」に不安を感じます。
特に3つ目は、致命的です。
制度がないことは、今いる社員のためだけでなく、
「これから入ってくる人」のためにもリスクになります。
「うちはまだ早い」は、本当に正しいのか
人事制度を作るタイミングは、黒字になってからでも、100人になってからでもありません。
むしろ、30人前後が一つの分岐点です。
社長の目が届かなくなり始めるタイミング。
中間管理職が生まれ始めるタイミング。
採用が加速するタイミング。
この段階で仕組みを作れる会社は、安定的に伸びます。
逆に、「問題が起きてから」作ろうとすると、
制度は対症療法になります。
本来、人事制度は守りではなく、攻めのツールです。
・採用で選ばれる
・育成の方向が揃う
・評価に納得感が出る
・組織に一体感が生まれる
制度は会社の“未来設計図”です。
制度は、完璧である必要はありません
ここで大事なことがあります。
最初から完璧な制度を作る必要はありません。
大切なのは、
「この会社は、どんな人に活躍してほしいのか」
これを言語化することです。
制度とは、分厚いマニュアルではなく、
経営の思想を形にしたものです。
うまくいっている今だからこそ、
余裕のある今だからこそ、
仕組みを整える価値があります。
問題が起きてからでは、遅いのです。
もし今、
・社員が増えてきた
・評価に少しでも違和感がある
・将来の組織像がぼんやりしている
そう感じているなら、それはタイミングです。
「まだ早い」ではなく、
「今だからこそ」が正解かもしれません。
人事制度は、会社を縛るものではありません。
会社を強くするための“土台”です。
土台がなければ、上には積めません。
成長を本気で考えるなら、
一度、自社の“基準”を言葉にしてみてください。
そこから、組織の未来は変わり始めます。


